泣くな、臆病者

泣くな、臆病者

 

 

 

 尋ねられた言葉に、私は首を振った。
「ごめん、今度の試合は行けそうになくて」
「えー! そうなの」
 申し訳なさそうに眉尻を下げる。相手は肩を落とす様子を隠さなかった。ガクリ、と頭を落とし今回近いから来ると思ってたと溢される。そんな相手に縋るような目で追う自分に胸中でせせら笑う。今断ったのは自分だというのに。なんたる未練。
「……仕事?」
 上目遣いにこちらを見てくる相手に頷く。そんな仕草が可愛らしくて困る。
「次の日、出張で早朝5時に家を出なくちゃいけないの」
「いつも思うけど、ハードじゃない? ナマエの仕事って」
 少し低い声で小さくこぼされる。私の仕事を快く思っていないのではとどこか感じさせられて。ちくり。胸に棘が刺さる。
 ごめんね、と謝る必要もないのに言いそうになって、咄嗟にぐっと腹の底に言葉を押し込める。なにも言えない私の様子をどう取ったのか――取ってもいないのかもしれないけれど――彼はにっかりと笑うのだ。
「まぁさー、俺、大変でもめげずに頑張るナマエ好きだから」
 ちくり。ちがう場所が痛む。
 胸がきゅうっとするから、そんなに無防備に笑うのはやめてほしい。
 伸びてきたゴツゴツした手が、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。大きな体の中に、私はすっぽりとおさまってしまう。背中に回された腕が熱い。耳たぶ、首筋、薄い彼の唇が触れる。
 愛しくなって、嘘ついてごめんね、とつい言いたくなってしまった。

 ギリギリに到着したせいか、スタジアムの中はびっしりと人で埋まっていた。
 客席のどよめきは思っている以上に大きい。ゴール裏が近いせいかもしれない。選手を鼓舞させる応援歌や太鼓の音が耳の鼓膜に響いてくる。
 それらを耳にしながら私は階段をのぼる。二階席は思った以上に高い場所だった。ここから転げ落ちたらたまったものじゃないだろうな。想像して、足が竦んでしまう。そんな自分に鼓舞激励を送って足を必死に動かして、人に頭を下げながら席に座る。荷物を置いて、タオルを首にかけて、それから顔を上げた。選手たちが一旦引いたグラウンドが菱形に見えた。その奥ーー私がいつも座る席が見えた。メインスタンドの中央後方にある関係者席。いつも私はあそこに座っているのかぁ。選手の姿が見えるくらい近いし、見えるグラウンドは綺麗な長方形だ。――バックスタンドゴール裏寄りのこの席からじゃとても遠い。
 私は今、藤代誠二に来れないと伝えた試合に来ている。
 翌朝が早いのは本当だ。嘘じゃない。かと言ってたかがそれ位で行かない訳がないのだ。それくらい気付いてほしい。
 あの人が用意してくれた関係者席でなく、一度この大きなスタジアムのサポーターたちと――所謂一般人扱いを受けてみたかったのだ。
 こんなことを試みようと思ったのは急な思いつきなんかじゃない。ずっとずっと昔から思っていたのだ。

 私は藤代誠二――誠二と所謂「おとなりさん」というやつで、小学生の頃からずっと一緒だった。私の兄が同じ地元のサッカークラブに入っていたから、必然と試合を見に行き、見に行く先にはいつだってボールを追いかけまわる誠二がいた。楽しそうにくるくると器用にボールを蹴る相手を見ていて、はじめはへーすごいなー、こんな人いるんだ、くらいだったのに、ずっとサッカーをしている誠二を見ていたら、カッコいい、もっと見ていたいーーいつからか素直に惹かれていた。兄には悪いけれど、たった数十分しかない小学生の試合の最中、いつだって目は誠二を追っていた。そうしていたら、サッカーを見るのが好きになっていた。だって誠二が好きなものなんだもの。だから誠二からキラキラした目で、
「なぁナマエ、俺のシュート見た?」
「見た! ミドルシュート!」
 答えたいから、嵌っていくのは当たり前のことだった。
 誠二の両親とも顔見知りだったから、中学が別になっても向こうの試合の時はしょっちゅう声をかけてもらった。
 ――ナマエちゃん、サッカー好きでしょう?
 今にして思えば、おばさんは私の気持ちを見透かしていたに違いない。大人は子どもの倍以上人生を積んでいるのだ、そりゃあお隣りさんの娘さんがうちの息子のことを好きだとピンときたに違いない。
 そうとも知らず、私は喜んで付き従っていった。他中の制服を着て応援に行く勇気はなかったから、私はおばさんの娘のような体裁で試合を観に行った。観に行った先には中学の割にやたら大人数で有名なサッカー部だったから、応援席には試合に出られなかった部員が座っていることが多々あった。黒と白のジャージの部員と、武蔵森中学の制服を着た女の子たちをよく目にした。

『ナマエさぁ、うちの試合よく観に来るよね』
 夏休みだったか年末だったか、あの頃帰省した誠二と交わした会話が妙に頭の中に残っている。
 言われたとき、顔が熱くなった。誠二は私がおばさんと一緒に来ていることに気付いていたんだ。嬉しくて、
『どうして気づいたの?』
 伸びなくなった背で顔をみようと顎を持ち上げる。声が高くも低くもない、喉仏もまだ出来切っていない首が見えた。泣きぼくろを右目のそばにおいた相手はぱちぱちと瞬きをした。
『だって、観客席にいた部員たちが騒いでた』
『え』
『いつも試合にくる同じくらいの年の子がいるって。で、どんな子だろーって言われてみたらナマエが母さんといるし。俺マジでビックリしたんだけど』
 見上げた先の顔が笑う。笑った顔がかっこよかった。
『そっか』
 ただ、私は酷く落ち込んで上手く笑えなかったのを覚えている。
 誠二が最初に気付いて自ら見つけてくれたのかと期待していたから。誰かに言われるまで知らなかった、気付かなかった、という事実が、とても悲しく思えたのだ。
 行くのをやめよう、そう決めた矢先。誠二のお母さんから、
『今度から、私の代わりにナマエちゃんに試合、見に行ってもらおうと思ってるの』
 回覧板を渡しに行った時に、そう言われてしまった。
 ナマエちゃんだってきっと他にも予定があるだろうし。都合のいい時だけでいいから。きっとサッカーのことよく分かっていない私よりも詳しいナマエちゃんが行ったほうが楽しいだろうし。誠二にもそう伝えておくつもりよ。だから、頼まれてくれる? と。
 断れなかった。
 だって、私はいつまで経っても誠二が好きだったのだ。
 あの頃からずっと、おばさんは私の背中をずっと押してくれていた。がんばって、と。あの頃の私は全く気付かなかったけれど。
 それから、私は大義名分が立ったおかげで、一人で観戦に行けるようになった。ただ、あまり目立った場所にはいないように、日の当たらない場所を探した。
 それが、中学から高校に変わっても続いた。私は試合を観に行き続けた。
 親にねだって買ってもらった携帯で互いにメールするようになった頃。ある日、電話越しに誠二から言われた。
『ナマエ、もうちょっといい席座ったら?』
『なにが…』
『せっかく観に来てんのに、見づらかったとか言って欲しくない。俺、試合をもっときちんと見て欲しいんだけど』
 その頃にはすでにプロ入りを周囲からも――勿論本人からも――意識されていた時期で。そんな相手からの意見だったからか、私は素直にそうかぁと受け入れてしまったのだ。じゃあどこに座ればいい、と尋ねた私もまずかった。
『次来る時、俺が席用意しとくから来いよ』
 大丈夫かな、良いのかな、そんな不安がちらちらと脳裏を過る。けれどそれ以上に嬉しくて舞い上がったのだ。そして。
 その日がやってきた。
 試合会場は思った以上に大きかった。何時にここで待ってて。誠二からのメール通りに素直にやってきた。日焼けするのを見越して帽子を目深に被って、大きな荷物の中には水分補給用にスポーツドリンクが入れてきた。準備万端だ。人が球場の中に入っていくのをぼうっと眺めていると、
『あの』
 急に声を掛けられた。振り向けば、艶やかな黒髪を長く伸ばした美人が私を見ていた。同じ女子だと言うのに、あまりに綺麗で私は思わず緊張して心臓が早鐘を打ち出していくのを感じた。
『もしかしてミョウジさん、ですか?』
『えっと』
 名前を呼ばれたことに動揺して瞳が彷徨う。不信感を抱く前に、相手が妖艶に笑った。
『初めまして、小島って言います。藤代から頼まれて来ました』
 さらっとぬばたまの髪が揺れる。腕を伸ばして促される。
『こっちです。案内しますね』
 隣りに並びたくないくらい、輝かしい人だと思った。話しかけられる度、まるで自分が劣等感の塊みたいで、自然と視線が下がっていく。私はきちんと会話をしているんだろうか。そう思わずにいられないくらい、心臓が嫌にバクバクと鳴っていた。相手の声が聞こえないくらい、それは大きくて。
『ほんとアイツって人使い荒いったらないですよね』
 親しそうに誠二を呼ぶ、彼女の鈴のような声に、爆弾でも抱え込んでいるのかってくらい激しい焦燥感を抱かずにはいられなかった。目頭が熱くなる。これから私は一体なにしに行くんだっけ。目的すら忘れてしまいそう。
『ミョウジさんの話、藤代から聞いてますよ。腐れ縁でずっと仲良くしてるって、大変ですね』
 こちらに見せた笑顔が眩しくて眩暈がした。ちらちらと見えた彼女のしなやかな腕や足は、普通の運動じゃつけられない程しっかりした筋肉が纏ってあった。
 その日で、私はたくさんのことを知った。
 小島さんという女性の存在。彼女が私のことを誠二からよく聞いて知っていたこと。私は彼女の存在を一度も誠二から聞いたことがなかったこと。
 サッカーを見るのが好きな私と、プレーするのが好きな小島さん。
 私が案内するんじゃなくて、案内されたこと。誠二のことを私が喋るんじゃなくて、彼女の口から私の知らない誠二を語られること。
 過去の誠二を多く知っている私と、現在(いま)の誠二を多く知っている小島さん。

 どちらが誠二の隣りに近いのか、答えは明白だった。

 ずっと見て来たからわかることがある。誠二が隣りに立つ人を選ぶとしたら、きっとこういう人だ。同じように高い志を持った、サッカーに人生をかけている自分に共感を持ってくれるような、比翼の鳥のような存在が。

 

 

 

「藤代誠二ー!」
 大音響で名を叫ぶ声に、ハッとして顔を上げる。選手紹介が既に始まっていたみたいだ。大画面に映る誠二の姿に歓声が湧く。
 次々と紹介されていく選手たちを眺める。あの人たちと挨拶を交わしたことがある。関係者席によく座っていると、誰が誰の知り合いかとか薄っすらと見えてくるのだ。そこで三上選手の紹介でやってきていた笠井さんと中西さんに声をかけてもらった。その時、私は中高を通して武蔵森に応援にくる名物になっていたことを知った。
『有名だったよ』
『そうそう、今日はどこにいるのかなんて、皆で探して』
『誰が試合中に見つけられるかかけてた時もあったっけ』
 そんなこと、誠二は一言も教えてくれなかった。ネタになっていたなら、言ってくれたら良かったんだ。そしたら応援にも行かなかったのに。
『悪意はなくて、本当に。本当だから』
『むしろ逆だよ、好意として受け取ってほしいんだけど』
 二人はそう言っていた。けれど、あまりに恥ずかしかったから私は誠二にそのこと伝え責めたのだ。
 誠二は、とてもつまらない話を聞いてるみたいな顔をしていた。
『別にいいじゃん』
 その話終わり。もーいい? 答えられて、咄嗟に鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしてしまった。それから、誠二にとってそれはそこまで重要じゃなかったんだと気付いた。そうか、私の事はそこまで重要じゃなかったのか。グサグサと突き刺さる言葉に呼吸が詰まって唾を飲み込めなかった。
 それでも私が誠二との関係を絶つことはなかった。
 なぜなら誠二への片思いを胸に秘めたままだったからだ。
 生きてきた中で、誠二以外の人に惹かれなかったか、と聞かれれば嘘になる。魅力的な人は居たし、いいな、と思う人はいた。
 ただ、それが誠二以上にならなかった。私は誠二への想いを昇華することも、出来なかった。
 抜け出すチャンスはいくつもあった。
 例えば思春期の頃、おばさんから観戦を頼まれた時に断ればよかった。小島さんという存在を知った時に行かなくなればよかった。
 誠二がJリーグ選手になった時。
 私が大学に入学して、下宿先で一人暮らしをはじめた時。
『もう、無理して行かなくていいからね』
 誠二のお母さんから、そう言われてしまった時。
 成人式の折、中学の同窓会で集まった時に再会した男の子に告白された時。
 私が大学を卒業して社会人になった時。
 忙しさにかこつけて、離れればよかったのだ。

 そうすればよかったと思うけれど、

『ナマエ、次の席取っといたから』
 頼んでもないのに、勝手に電話越しに伝えられたり、
『お互い忙しくてさ、連絡とかどっちかが止めてる時もあって。まぁいっか、こっちから取るのもなーってなってったらさ』
 小島さんと自然消滅したと報告された時とか、
『今は本気で付き合うとかいらない。サッカーが楽しくてしょうがない』
 恋愛ごっこもしたくないと、サッカーにときめいている瞳を見た時とか、
『お前に何がわかんだよ!』
 足を怪我して、療養のせいでサッカーできなくてストレス溜めた誠二に八つ当たりされたり、
『ナマエ、お願い、そこに居て』
 落ち込んだ誠二に頭を預けられた時とか、
『また次も見に来るんだろ!?』
 身体から湯気でも出てるんじゃないかってくらい暑そうな試合直後に会って伝えられたら、

 断れなかった。昇華など出来なくなってしまったのだ。

 相手から異性としての好意を微塵も感じなくても。
 もう叶わなくてもいいから、ずっとずっと、私に誠二のことを想わせて欲しいと、願ってしまった。

 ここまできて、これは末期症状だと悟った。きっとこのままじゃ私はいつか誠二が欲しくて堪らなくなる。一部のパトロンにも成り下がることも出来ず、いつかくるだろう誠二の隣りに並ぶ人を羨みこそすれど、そこにいきたいとも願わないような。そんな中途半端で満足するようになる。
 それは、よくないことだ。それくらい、誰かに悟らされるまでもなくわかっている。
 だから、私は――。

「いよいよ選手入場です」
 いつもなら見えない入り口が、見える。そこから、選手たちが登場する。誠二が登場したのは、シューズの特徴的な蛍光色で分かった。それで確かめないといけないくらい、遠い距離なのだ、ここは。
 遠く小さい誠二の姿を確認して、思考を巡らせる。
 私と誠二の距離はこの距離が妥当なのだ。
 あんな風にいつも近くの席に座れるわけじゃない。腐れ縁だからといって近くにいていいわけじゃない。
 ピッチ上を駆ける誠二の姿を、昔から見てきた。
 白い枠線の近くから、小さな規模の会場の一番前から。それが、段々と遠くなって。でも、その中では近い距離で。
 でも段々と、段々と、遠くなっていって。

 視界が水膜で覆われた。世界がキラキラと輝いている。
 日本の、みんなの誠二。私とはこれっぽっちも世界が釣り合わない。
 ああ、もう。
「本当に、遠いなぁ」
 ぽたぽたと雫がこぼれてしまったじゃないか。 

 

 

 電車から降りて、家路につく。
 なんだか、今日の試合は思いの外疲れた。普段なら勝利の試合の日は興奮冷めやらぬ状態で、アドレナリンがいっぱいなのになぁ。
 やっぱり、けじめを付けたからだろうか。
 そうでもなければ、こんなに心身が疲れるはずもない。どこかの家からシャンプーの香りがした。私もお風呂に早く入りたい。普段使いもしない入浴剤でも入れて、湯船に思いっきり浸かり切りたい。身体どころか、心も五感全てを沈み込ませて、ずぶずぶに和らげてしまえたらどんなにいいか。
 夜道を歩く私の足元を、風がすり抜けていく。頭上には重たそうな雲が歩く先まで立ち込めている。
 あの時――幼い頃、もっとサッカーという世界に興味を示していれば。
 ふと、思った。
 私は羽を広げて誠二という土台から飛び立てばよかったのだ。そうすれば、きっとこんな形で終わらせずにすんだ。そして、もっと自分から色んな世界(恋)へ飛び立つことができたのだ。
 でも、結果はこのとおり。
 自ら羽をもいだ代償はでかい。
 胸のなかにぽっかり空いた穴が、自分の意識やら感情まで吸い込んでしまいそうだ。それだけ大きかったのだ。
 藤代誠二とは、私にとってそれだけかけがえのない存在だったのだ。

 ブブブブ、と一定の振動音が響く。頼りない街灯の下で私は立ち止まった。カバンから光るそれを取り出すと耳に当てた。
 誠二からだった。
 私は鼻から息を吸い込んで、
 誠二、見たよ、1ゴール決めたじゃん。おめでとう。よかったね。
 向こうが何か言うより先にすべてを言い切ることができた。いつも先手を取られて誠二にすべてを持って行かれてしまう。だから、回避するにはこうするしかなかった。
 もうさよならするんだ、この恋と。
 ――サンキュ!
 受話器越しに聞く声に、不覚にも嬉しくなる。相手がゴールを決めた時の詳細を語っている。
 ダメだ。止めなくちゃ。一線を引くって決めたんだ。相手との距離を保つんだ。
 これ以上詳しい話を聞いちゃダメだ。
 テレビで言ってた、SNSに書いていた。そんなネット社会で情報を把握するよりも。アナログで本人の口からすべてを聞くことができることが一番いい立場じゃないか。優越感に浸ってしまう。――このままじゃ、抜け出せない。
 相槌を打つ声が掠れていく。誠二は私の変化に気づいているだろうか。
 いいや、ちっとも気付いていないだろうなぁ。

『ねぇナマエ、やっぱりあの席で応援しててよ』
『うん? なにが?』
『今日、スタジアム来てただろ。俺の見えない場所で』
『なんでそう思うの?』
『んー、まぁ、直感みたいな? 俺にはわかんの。ナマエが来てるって』

 真っ黒い胸がぐらぐらと揺れた。なによ、それ。

『ナマエは、俺が見える場所に座って、俺を応援しててよ』

 なんなのよ、それ。

『離れんな』

 ああ、もう――。
 頼りない街灯の下でしゃがみ込む。コンクリートに涙を溢す。胸の中がぐちゃぐちゃだ。
 鼻腔が詰まって呼吸ができない。小さく嗚咽をこぼしたら、向こうで笑う声が聞こえた。

『泣くなら俺の前で泣けよ』

 じゃないと慰められないじゃん。そうしてくんないと困るんだけど。
 俺にとってナマエはそれくらい大事ってこと。わかってる?

 なんでそんな事今更言うのよ。
 さよならし損ねてしまったじゃないか。

 

 

 


[2016年04月25日]