夜には夜の演目がある

※諸注意 15歳以下、性描写が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。 軽く性的表現があります。お下品です。 唐突に始まる家族パロ。 五条さんと夫婦で一人息子が喋ります 空っぽにして読んで下さい 以上を踏まえてお読み下さい。 夜には夜の演目がある 「おかーさん」 ふと下を見ると、息子が私の足にしがみついていた。 「がったい」 微笑ましくなってつい笑みが溢れる。 「何それー」 「ぎゅー。がったい、かんりょうしまちた」 そういって子どもは手加減なくしがみついていた腕をパッと離した。こちらを見上げる息子は、私に似ず銀髪に薄い色素の瞳をキラキラと輝かせている。可愛い、本当に。 愛おしさに負け、屈んでまだ小さな体を抱きしめてやれば、嬉々とした声を素直に溢す。 「おかあさん、うれしい？」 上目遣いに見られる。うん、と自然と頷く。 普段からお利口とは疎遠のようなやんちゃな子でも、こういった愛情表現はとても可愛らしい。 ただ、一体どこからこんな発想が出てきたのかだけは不思議でしょうがなかった。 なんだろうと思っていると、その晩すぐに判明した。 晩ご飯もお風呂も寝る前の歯磨きも終えて、あとは寝かしつけるまでのほんの僅かな時間。休憩というには短すぎるけれどもソファに腰掛けて体を休めていると息子の声がした。手には知育のおもちゃ。 「レジと、がったい！」 年齢に合わせた教材を定期的に送ってきてくれる通信教育のおもちゃの声に、なるほどと頷いた。おもちゃと教材として送られてきたレジのコードを差し込むと、言葉を発声するようにできているらしい。 子どもはおもちゃの発声に合わせて「いらっしゃいませ」なんて言いながらおもちゃのバーコードを通している。 「たっだいま〜」 呑気な声が扉向こうの玄関口からくぐもって聞こえた。と同時におもちゃを放り出した息子が即座に立ち上がり、扉を押し退ける勢いで走っていく。数秒して「おかえり！」と高い声の返事に思わず微笑んでしまうのは仕方がない。 息子を抱き抱えてリビングへ入ってきた相手を見上げて「おかえり」と一声。 親子揃って銀髪、整った相貌、宇宙と言いたくなるような綺麗な四つの目がこちらを見下ろす。この瞳から感じられる強烈さは、何年経っても慣れない。 「いや〜もう参っちゃうよね、アイツら人の事コキ使いすぎ」 「おかーさんいやしてー」 「それ僕の台詞」 父親の言葉など意に介さない息子は、両手を伸ばしてこちらに抱っこを要求してくる。仕方がないと、こちらも高い位置にいる我が子を受け取ろうと手を伸ばした。赤子の頃に比べれば随分重たくなった息子を抱き抱える。 「おも」 つい本音が溢れる。そんな母親の言葉など聞いていない息子はくるりと身を捻る。 「おとーさん、みてみて」 「ん？」 「おかーさんとがったい！」 元気な声と共に両足を上手にこちらの腰に巻きつけて腕を首に絡めてくる。 耳が痛いよ、と思わず苦言をこぼす。それでも父親に嬉しいことを報告できたと喜びいっぱいの息子の顔を見れば許してしまう。 「今日急に言い始めてね」説明しようと夫の顔を見て、その言いようのない危機感のような危うさを瞬時に察知した。 子どもの前で、何か要らないことを言う。絶対に。 「僕だってと合体したいんだけど」 ほらきた。純粋な息子の言葉と違って、完全に彼のコレは猥褻なナニかが含まれている。コレは相手にしない方がいい。 私は夫のお迎えモードから一転して子どもの寝かしつけモードに切り替えた。 「そろそろねんねしにいこっか」 「最近ヤ」 「お父さんにおやすみって言おっか！ はい、おやすみなさい」 「おとーさん、おやすみ」 抱きついたまま息子が手を振ったのを確認して、夫の声を掻き消す。 「お風呂、沸いてるから入ってね」 それだけ言い残して寝室へ直行した。 ああ言うところは幾つになってもなおらない。教師のはずなんだけど、教育者としてこういった発言は日頃からどうかと思う。自分の性に対して奔放すぎる気がしてならない。 寝かしつけて寝室からリビングへ向かうと、テレビ横の間接照明の暖色系の明かりだけがついていた。どこにいるのかわからず部屋の中を進むと、テレビの向かいに置いてあるソファに彼はだらしなく横になっていた。お風呂は入ったらしく寝間着を着ている。巨躯にソファを陣取られて座るスペースがない。 やむなく、私は彼の顔の前に屈み込んだ。そっと話しかける。 「悟、寝た？」 「膝枕して」 「髪拭いてないでしょ、いや」 「じゃあ拭いて」 「うちには子どもが二人いるのかな。起きてくださーい」 のろのろと体を起こした相手の首に引っかかっているタオルを持つ。ソファの空いたスペースに膝立ちすると、隣りからわしゃわしゃと拭う。強くし過ぎたかな、と思っていると長い睫毛を伏せた相手が「いたっ」なんてわざとらしく声を漏らす。 「痛がるなら自分でしてよ」 「やだ」 「甘えんぼ」 「でもそんな僕を好きでしょ」 「……」 なんだか素直にうん、と言うのが恥ずかしい。けど。 手を忙しなく動かしながら、うん、と小さく溢せば相手はどこか満足気にふふっと鼻で笑った。 「僕も好きだよ」 「知ってますー」 「ヘタに照れ隠しされると、却ってこっちが恥ずかしくなるんだけど」 じゃあどうしたらいいの、もう。 頬が熱くなったのを見られないようにタオルで拭う髪をわしゃわしゃともっと強くすれば、両手を掴まれた。手首を掴まれたので自分で動かすことができない。 「もういいよ」 「根元まだ濡れてない？」 彼の頭から手を下ろされる。そのまま下へ下へとおろされるので、強制的に腰を屈める。と、彼が上を向いた。 ちゅ、と唇が触れ合う。タオルが悟の膝に落ちた。濡れてるから寝間着にも移っちゃうんじゃないかな。いつのまにか首に手が回って後ろから押される。角度を変えて再び唇を重ねる。 体勢を維持出来なくて悟の膝の上のタオルに手をつく。手のひらが冷たい。どかそうとタオルを掴もうとしていると、腰に回された手が少し強引に身体を引っ張ってきた。誘導されて、悟と真正面で膝の上を跨ぐ体勢になってしまった。見下ろしていた立ち場から少し見下ろされる立場にみごと逆転。 あ、これはと思って身を引こうとしたら、ちう、と上唇を引っ張られた。リップ音と共に少し顔が離れる。悟の前髪がくすぐったいなぁ。 「ねえ、合体しようよ」 「その言葉、悟は使っちゃダメ」 「なんで」 「子どもの心が汚れる。明日からあの子がしてくる度に辛くなるからやめて」 えーなんて不満そうな声とは裏腹に、ニヤニヤと厭らしいそうな顔。何かまた企んでるな。 両手を腰に回されて後ろから押される。必然的に下半身同士が近づいた。彼は視線を下に向けた。 「じゃあ、僕のココと、のココを」 「それ以上言うなっつってんの」 「ちょっとちょっと、口悪くない？」 「誰かさんの口調が時々移っちゃうの」 にこりと義務的に笑う。誰が言わせてるんだ。どこぞの誰かさんが、人のお願いを聞いてくれないからじゃないんですか。 「ふーん。じゃあ、そんな悪い口にはお仕置きが必要だね」 近づいてくる顔から逃げようと背を反らせる。これ以上反らせないというだけ反らしていると、腰をがっしり掴んでいた手が急にパッと離された。支えがなくなった私は頭から後方に落ちそうになって、咄嗟に悟の肩を捕まえようと手を伸ばして、逆に手首を捕まえられた。片手に持っていた湿ったタオルがゆらゆら揺れる。揺れていると認識するよりも先に手前に引っ張られて悟の頬に頬をぶつける。ちらりと横目で隣りを窺えば、端正な顔が暗がりの中でもハッキリと妖しく笑っているのが見えた。 これはもう、逃げるのをあきらめた方が早いかな。体の力を抜いた。 髪の隙間に指を差し込まれて、顔を固定される。何度も唇を触れ合わせれば、少しずつ息が上がってくる。悟の肩に置いていた手を、そろそろと首の後ろに回す。タオルが冷たいから何とかしたいけど、きっとこの空気を壊したら怒るんだろうな。でも冷たいな。 「考えごと？」 何か察したらしい。どこか不満げな声に「タオルが」と伝えれば、ちら、と後ろに視線を向けてそれから再び口づけを再開しだした。 「ね、タオル」 「落としなよ」 「えー」 「どうせ後で拾うから」 いつの間にかパジャマの隙間に手を差し込まれている。 「えー」 「最近全然だから早くシたいんだけど」 「……全然？」 出張が入ったりしたらなかなか出来ない時もあるけど、最低でも三日に一度のペースで？ 「一昨日のアレは一体」 「一日一回しかできてないじゃん」 「それは、だっていつ起きてくるかわからないし」 「あと最近リビングばっか、そろそろ別の場所もいいよね。脱衣所とかどう？」 「脱衣所はいや、だって鏡あるもん」 首筋をやわく食まれる。 「興奮するでしょ？」 「変態」 目の前にやってきた耳を口に含むと、首筋でまた悟がくくっと笑った。 「どっちが」 鎖骨を舐められる感触と、服の下を蠢く掌が私の身体をみだりな気持ちへ煽惑していく。指先の力が抜けてきて、ぽと、とタオルがフローリングに落ちた。さあ、大人だけの時間の始まり。 2021.04.03 タイトルは『afaik』様より拝借。